第3章:技術的特徴と人気の秘密 ― 重厚なクラストと軽やかなクラムの二元論
YENTA(エンタ)のパンが人々を虜にする最大の理由は、その「食感のコントラスト」にあります。初めてそのパンを手にした人は、しっかりと焼き込まれた黒光りするようなクラスト(外皮)に驚くでしょう。一見すると「硬くて重いパン」に見えるかもしれません。しかし、一口噛み締めた瞬間に、その先入観は心地よく裏切られます 。

「湯種」の魔術:ジャガイモと全粒粉の融合
YENTA(エンタ)のパン・ド・カンパーニュなどのハード系パンには、独自の技術が盛り込まれています。その筆頭が、ジャガイモと全粒粉という2種類の「湯種(ゆだね)」の使用です 。
通常、湯種は日本の食パンをモチモチさせるために使われる技法ですが、吉原氏はこれをハード系パンに応用しました。
- 保水性の向上: ジャガイモの澱粉が水分を抱え込み、時間が経ってもパサつかず、しっとりとした質感を維持します。
- 口溶けの良さ: 湯種化された粉は消化しやすく、口の中でスッとほどけるような軽やかさを生みます。
- 複雑な旨み: 全粒粉の湯種は、加熱されることで特有の甘みが引き立ち、ルヴァン種の酸味と絶妙に調和します。
この工夫により、「見た目は無骨で力強いのに、食べ心地は驚くほど軽やか」という、唯一無二の個性が完成しました。「いくらでも食べられる」という口コミが絶えないのは、この高度な計算に基づいた食感設計があるからです 。

自家製ルヴァン種による「変化する味わい」
YENTA(エンタ)では、自家製のルヴァン種(小麦と水で起こした発酵種)を主体にパンを焼いています 。イーストを極微量に抑え(あるいは全く使用せず)、ゆっくりと発酵させることで、生地の中に複雑な有機酸と旨み成分が生成されます。
この製法の利点は、味わいの「経時変化」を楽しめる点にあります。焼き上がり当日は、小麦の香ばしさとルヴァン種の爽やかな酸味が際立ちます。翌日、翌々日と時間が経つにつれ、生地の中の水分と旨みが馴染み、まるで熟成したワインのように深いコクが生まれます 。日持ちが良いこともYENTA(エンタ)のパンの特徴であり、大きなホールで購入し、一週間ほどかけて少しずつ変化を味わうのが、常連客の楽しみ方となっています。






























